東京高等裁判所 平成6年(ネ)2686号 判決
札幌市西区西町南一二丁目五番一三号
控訴人
有限会社メディカル研究所
右代表者代表取締役
廣井三郎
右訴訟代理人弁護士
園田峯生
東京都渋谷区幡ヶ谷二丁目四三番二号
被控訴人
オリンパス光学工業株式会社
右代表者代表取締役
下山敏郎
右訴訟代理人弁護士
大場正成
同
鈴木修
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(一) 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
(二) 被控訴人の請求を棄却する。
(三) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文と同旨
二 当事者の主張
原判決四六頁一行ないし三行を、「被控訴人のフィルムの販売方法が独占禁止法に違反することはなく、まして、控訴人製品の販売行為の差止めを求めることが権利の濫用になることはない。」と改めるほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
三 証拠
証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠に関する目録記載のとおりである。
理由
一 当裁判所も、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は、原判決が認容した限度において正当としてこれを認容し、その余は棄却すべきものと判断するものであるが、その理由は、次のとおり改めるほか、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。
原判決七五頁四行ないし末行を次のとおり改める。
「2 控訴人は、被控訴人が、本件意匠権、本件特許権、本件実用新案権(一)、(二)の各実施品にフィルムを装填した被控訴人商品を現像料込みで販売し、しかも、現像所を各地域ごとに一箇所しか指定せず、法外な利益を独占していること、市販の通常のカラーフィルムに比較して著しく高価な被控訴人商品のフィルムを消費者に売りつけ、現像を独占するために現像料を著しく低額にしていることなどは、独占禁止法に違反するものであり、被控訴人は、右のような違法な取引によって消費者に対して莫大な損害を与えているものであるところ、控訴人は、被控訴人に対し、再三現像所開設の要請をしたにもかかわらず、被控訴人がこれに応じなかったため、消費者である医師等からの要請を断りきれず、迅速なかつ個別の注文に応じた現像を行うため、やむなく控訴人製品(一)及び(二)を入手して販売しているのであるから、被控訴人の請求中、控訴人製品(一)及び(二)の販売行為差止めの部分は権利の濫用である旨主張する。
成立に争いのない甲第一二号証及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、本件意匠権や本件特許権等の実施品にフィルムを装填した被控訴人商品を現像料込みで販売しており、被控訴人の指定する特定の現像所において現像する場合は現像料が無料であること、被控訴人の指定現像所は全国に一四箇所あり、北海道においては札幌市北区に一箇所指定されていることが認められるが、上記事実により被控訴人が法外な利益を独占していることを認めるべき証拠はない。また、被控訴人商品のフィルムが、市販の通常のカラーフィルムに比して不当に高額であり、現像を独占するために現像料を著しく低額にしていること、被控訴人商品の取引によって消費者に対して莫大な損害を与えていることを認めるべき証拠もない。
ところで、独占禁止法は、事業者が不公正な取引方法を用いることを禁止しており(一九条)、不公正な取引方法には、不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し、又は強制する行為であって、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するものが含まれるところ(二条九項三号)、公正取引委員会告示一五号は、「相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ、その他自己又は自己の指定する事業者と取引するように強制すること。」を不公正な取引方法として指定しているが(一般指定〈10〉)前掲甲第一二号証によれば、被控訴人は、医療用として適切良好な内視鏡写真を提供するために、内視鏡本体、内視鏡用カメラ、フィルム及び現像技術の品質を総合的に管理する体制を採っており、その実効を挙げるための一環として、指定現像所システムを採用していることが認められ、これらの事実と内視鏡写真の特殊な用途に鑑みれば、被控訴人が被控訴人商品を現像料込みで販売していることや指定現像所システムを採用していることが、不公正な取引方法に該当するものとは認め難く、他に、被控訴人商品の販売方法等に独占禁止法違反の事実が存することを認めるべき証拠はない。
そして、仮に、北海道地区には指定現像所が一箇所しかないために、多少現像やその集配に時間がかかることがあったり、あるいは、被控訴人が控訴人からの現像所開設の要請に応じないことがあったとしても、本件意匠権や本件特許権等を侵害する控訴人製品(一)及び(二)の販売行為の差止めを求めることが、権利の濫用とならないことは明らかであり、乙第七号証(控訴人代表者の陳述書)によっても、右請求が権利の濫用であることを肯認すべき事情が存することを認めるに足らず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって、控訴人の前記主張は理由がない。」
二 よって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)